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理系白書の「衝撃」からのブレイクスルー エンジニアのためのリーン・スタートアップ

2018.12.02

アドベントカレンダー2018

理系白書の衝撃

技術本部の光山です。突然ですが、皆さんは「理系白書」という本をご存知でしょうか。この本は「理系と文系の生涯賃金格差は5000万円」(理系の方が低い)というショッキングな事実から始まっています。私はこの「理系白書」を大学進学直後に読み、理系の社会的地位、待遇の低さに大いに衝撃を受けました。進路を間違えたかな、と進学早々に悩んだりもしました。

Google、Facebook、Dropbox...ベンチャー企業が世界を変える

しかしながらその後、時代は大きな変化を迎えました。

私が大学・大学院在学中、Google、Facebook、Dropbox等々、アメリカでは理系・エンジニア出身で大成功したベンチャー企業が次々と生まれ、圧倒的速度で成長していきました。Googleについては、「Yahoo!はディレクトリ型検索、Googleはロボット型検索です。ディレクトリ型検索の方が主流ですが、ロボット型検索という方法も覚えておきましょう」と講義で教わるほど、当初は認知度の低いサービスでしたし、「匿名性がSNSの最大の利点なのだから、実名のSNSなど流行るわけがない」というのがFacebookの最初の評価だったと記憶しています。しかしながら、これらのサービスは、大方の予想に反しその後またたく間に市場を席巻していきました。

世界を変えたプロダクトが、最初はごく少人数のエンジニアの手によって生み出されたという事実に、私は大いに感銘を受けました。同時に、「理系でもやれる」「いつか私も」という思いが芽生えてきました。そして、Webエンジニアとして社会人の第一歩を踏み出しました。

その後エンジニアとしてのキャリアを重ね、いよいよ自分でも何かサービスを生み出したいという思いが強くなっていきました。しかしながら、私はそこで大きな壁に突き当たりました。新しいサービスを作るために、何をどのように進めていけばよいのか、皆目検討がつかないのです。

  • 医療をもっとフェアなものにしたい
  • 日本の教育を良くしたい
  • 飲食店の検索や予約を、もっと簡単にしたい
  • 農業用の土壌センサを作ったら売れるのでは?

等々、スケールの大小問わずアイデア(とすら呼べないような漠然とした考え)は浮かぶものの、

  • では何を作ればいい?
  • 必要なデータはどこから入手する?
  • 誰にどのようにセールスを行えばよい?

等々、その後の障壁が高く、また多すぎて、すぐに思考の袋小路に陥ってしまいました。

リーン・スタートアップ

そのような状況の中、会社の先輩に教えて頂いたのが「リーン・スタートアップ」という方法論でした。「リーン・スタートアップ」の冒頭を読んで、「これは今の私に最も必要なものだ」と確信しました。

まず最初に、優れた計画やしっかりした戦略、市場調査の活用に目を奪われることが問題として挙げられる。昔は、このような指標で成功の可能性を測ることができた。そのためスタートアップでも同じようなことを考えたくなるのだが、不確実性が大きいスタートアップにこの方法は使えない。

(中略)

もうひとつの問題は、旧来の総括マネジメント手法では現状に対処できないと気づいたアントレプレナーや投資家の一部に、方法論をあきらめて「とにかくやってみよう」と言いだした人々が存在することだ。マネジメントに問題があるのなら無秩序にすればいい、というわけだ。しかし、これでうまくいかないことも、私は経験から断言できる。

「精緻な市場分析や綿密な事業計画書作成を行ったところで、本当に新しいビジネスを生み出すことができるのだろうか。そうかと言って、闇雲にプロトタイプを開発するのも、目隠しをして登山をするようなもので、不確実性が高すぎる。一体どうすればよいのだろうか」......そう考えていた私にとって、「スタートアップをマネジメントする方法論がある」という考え方は正に寝耳に水でした。興奮して、一晩で読み切りました。

リーン・スタートアップの肝となる考え方

リーン・スタートアップの肝となる考え方は下記になります。

  • Build-Measure-Learn(構築-計測-学習)のフィードバックループを素早く回す
  • 的確な検証が必要な要の仮説からスタートし、必要最小限の製品(MVP)を作って仮説を検証する方法を学ぶ
  • 進しているか否かは、新たな会計手法で測定する(革新会計)
  • 片足をしっかりと地につけたままでコースを変えて方向転換(ピボット)をするか、今のまま辛抱するかを判断する

リーン・スタートアップの実践手順

さらに、「実践リーン・スタートアップ」では、より具体的な手順に落とし込まれています。

手順1:プランAを文書化する

プランAとは初期プランのことです。(実際に起業や新規事業の現場において、プランAがそのまま最終的なサービスとなることは滅多にありません。)「リーンキャンバス」などのスタートアップや新規事業のビジネスモデルに適したフォーマットに従って、プランAを文書化します。

手順2:プランで最もリスクの高い部分を見つける

スタートアップの最も大きなリスクとは、誰も欲しくないものを作ることです。また、そのリスクはスタートアップのステージによって決まります。そのステージは、大きく3つに分かれます。まず最初は「課題が存在しないこと」が最大のリスクであり、したがって第1ステージで検証すべきことは「解決に値する課題はあるか?」ということになります。

  • 第1ステージ:課題/解決フィット(Problem/Solution Fit)
  • 第2ステージ:製品/市場フィット(Product/Market Fit)
  • 第3ステージ:拡大(Scale)

手順3:プランを体系的にテストする

もちろん、この考え方がそのまま全て、あらゆるビジネスに通用できることはないでしょう。私はリーン・スタートアップは、フレームワークである、と解釈しています。WebサービスにもRuby on Rails、Djangoなどのフレームワークがあるように、ビジネスを生み出す方法論にもフレームワークがあるのだと考えています。まずフレームワークの根幹思想を学び、枝葉の部分は状況や対象に応じてカスタマイズすればよいのです。

実際にリーンキャンバスを作成してみる

これまでの学びを踏まえ、実際にリーンキャンバスを作成してみました。(今回作成したものはあくまで記事用の見本であり、実際の業務・事業とは無関係です。「手順1: プランAの文書化」は誰でも簡単にできる、ということを知って頂けたら幸いです。) 営業部の社員が営業活動の経緯を記録する「営業記録」の活用に課題があるのでは?と仮説を立て、リーンキャンバスを作成してみました。

アドベントカレンダー2018_リーンキャンバス.png

作成する際のポイントは

  • 項目が全て埋まっていなくてもよい

    (ただし、最もリスクの高い「課題(があるかどうか)」と「顧客セグメント」までは埋めておく)

  • 短時間で一旦全て作成してみること

    (実際、このリーンキャンバスの作成に費やした時間は1時間以下)

実際にこちらに基づいて新規事業を考える場合は、「最もリスクの高い項目から検証する」のが重要です。そして、初期フェーズで最もリスクのある項目は「課題が存在するかどうか」です。そこで、まずは営業部の方々の観察やインタビューを通じて、本当に設定した課題が存在するのかどうか検証を行い、MVP構築を行うのが、次のステップになるはずです。こちらの「営業記録」の例はあくまで記事用のサンプルですが、実際には別のテーマで、「リーン・スタートアップ」の方法論を使って新しいビジネスを生み出そうと、今まさにチャレンジをしている最中です。

エンジニアがリーン・スタートアップを学ぶ意味

「実践リーン・スタートアップ」に、エンジニアこそがまさにリーン・スタートアップを実践するのに相応しい、と述べられています。

結局、やはりITでの起業にはユーザを理解するビジネスのスキルとコードを書くスキルの両方が必要なのだ。 では、ビジネスがわかる人がコードを学ぶのと、コードが書ける人がビジネスを学ぶのではどちらがより簡単か。答えは後者である。

(中略)

ドットコムバブル期の考え方は「ビジネスが主体で、プログラミングスキルはサブとして付加」というものだったとすると、それから10数年が経った今は「プログラミングスキルが主体で、ビジネスはそれに付加」となった。逆転の発想である。

こちらの記述は、正鵠を射た意見であると感じます。やはりどんなに良いと思えるアイデアを思いついても、多くの人はそれを検証したり、形にしていくだけの技術力がありません。開発をしてくれるパートナーが見つかればいいですが、中々そうはいかないのが現実でしょう。そうなると、諦めるか、一か八か自己資金や借金を利用してエンジニアを採用するという博打に出ざるを得ません。

しかしながら、技術力のあるエンジニアは違います。何か良いアイデアを思いついたら、自らの手でそれを形にして検証していくだけの力があります。この差はとてつもなく大きいと思います。

もちろん、エンジニアの中には、「何を」作るかよりも、「どう」作るかに興味がある方も多いでしょう。

しかしながら私は、リーン・スタートアップの考え方に触れることで、ビジネスをゼロから生み出せるところが、エンジニアの最も「おいしい」ところではないかと、最近は考えるようになりました。それにチャレンジしないのは、江戸時代にマグロの大トロを廃棄していたように、後の時代の人から「平成のエンジニアはなんて勿体無いことをしていたんだ」と言われてしまうような、大きな機会損失ではないかと思っています。

さいごに

ビジネスを創造できる人、これがフォルシアの求める人物像です。私はこの考え方にひかれて入社を決めました。そして、この記事に書いたリーン・スタートアップの方法論を活用して、新しいビジネスの創造にチャレンジしています。 私の取り組みが、同じようにビジネスを創造したいと考えるエンジニアの方にとって少しでも参考に、また励みとなれば幸いですし、また、そうなれるように、今後も精進していきたいと思います。

この記事を書いた人

光山倫央

2013年新卒入社、エンジニア。
MRO(企業向けの消耗品)業界向けの検索サービス開発を担当。
最近では、新規事業開発にも携わり、新たな技術の創出を目指す。